ニュース
イネBSR2遺伝子の過剰発現によりトレニアへの病害抵抗性付与と花器官の大型化に成功し、その成果がInternational Journal of Molecular Sciences誌に掲載されました
花き園芸植物の育種においては、さまざまな病害に対する抵抗性を付与することが、生産性や日持ち性を向上させる上での最重要課題となっています。私たちは、過剰発現によりイネやトマトに病害抵抗性を付与することが示されているイネの遺伝子BSR2を遺伝子組換えによりトレニアに導入し、抵抗性の付与を試みました。その結果、Rhizoctonia solani(斑紋病菌)および Botrytis cinerea(灰色カビ病菌)に対する抵抗性が付与されたことが明らかとなったほか、花器官が大型化した花が得られました。BSR2遺伝子は病気に強く経済的にも価値の高い観賞用作物を開発するための有効な戦略となると期待できます。
本研究は,農研機構・生物機能利用研究部門 森 昌樹 博士らとの共同研究によるものです。論文は2022年4月25日に科学雑誌International Journal of Molecular Sciencesに掲載されました。
ガンマ線照射によるコムギの欠失変異体の形質変異に結びつくゲノムの欠失領域を、次世代シークエンス技術を用いて簡便に検出する手法を開発した論文がBMC Genomicsに掲載されました
コムギのガンマ線照射変異体の中には、新規の有用な農業形質を示すものがあり、育種材料として利用されています。しかし、その原因であるゲノム領域の同定はコムギのゲノムが巨大で複雑であるため、困難でした。
私たちは、最近明らかにされたコムギの高精度な参照ゲノム配列と次世代シークエンサーによるリシーケンス技術を組み合わせることで、コムギのような複雑なゲノムでもゲノムワイドに多型を評価し、ガンマ線照射によって生じた欠失などの構造変異をゲノム解読によって効果的に検出できる手法を開発しました。
この研究は、神戸大学、農研機構等との共同研究で、2022年2月9日にBMC Genomicsに掲載されました。
コムギの主要な種子貯蔵タンパク質の一つであるα-グリアジン遺伝子座の詳細な構造と品種間多様性を明らかにした論文がFrontiers in Plant Scienceに掲載されました
コメやトウモロコシにはないコムギの特徴の一つは、グルテンができることです。これにより、パンやうどんなどに加工することができます。グルテンは単一の物質ではなく、グリアジンとグルテニンが重合したものです。そして、グリアジンやグルテニンはゲノム中に複数の遺伝子が重複して存在していることが知られています。
私たちは、昨年11月に自らが解読した世界のコムギ15品種の高精度ゲノム情報(Nature 588, 277–283, 2020)を利用してコムギのグリアジンの一つであるα-グリアジンをコードする遺伝子座の詳細な構造解析と品種間比較を行い、品種間で遺伝子コピー数に大きな違いがあること明らかにしました。このデータは、今後、コムギの品質改良に大きく役立つものと期待されます。
この研究は、スイス・チューリッヒ大学、農研機構等との共同研究で、2021年9月3日にFrontiers in Plant Scienceに掲載されました。
コムギのフロリゲンの一つであるVRN-A3遺伝子の変異とその多様性に関する論文がPlantaに掲載されました
出穂制御はコムギを含め、多くの作物に共通する重要な農業形質の一つです。出穂に関わる遺伝子は多数ありますが、中でもフロリゲンとして知られるFT遺伝子は重要な役割を果たしています。コムギのFT遺伝子の一つであるVRN-A3遺伝子のプロモーター領域で見つけられた欠失挿入変異とその地理的な多様性を明らかにするとともに、出穂性への影響を明らかにしました。今後、出穂制御への応用が期待されます。この研究は、京都大学、神戸大学、横浜市立大学との共同研究で、2021年5月31日にPlantaに掲載されました。
Kazusa Nishimura, Hirokazu Handa, Naoki Mori, Kanako Kawaura, Akira Kitajima, Tetsuya Nakazaki (2021) Geographical distribution and adaptive variation of VRN-A3 alleles in worldwide polyploid wheat (Triticum spp.) species collection. Planta, 253: 132.
遺伝子組換えによる「八重咲きのキク」の作出に世界で初めて成功し、その成果が学術雑誌Plantaに掲載されました
キクの雄ずいと心皮の形成を制御している2種類のクラスC遺伝子(CAG1, CAG2)の機能を遺伝子組換え技術を用いて同時に抑制することで、これらの器官が花弁に変化した「八重咲きのキク」の作出に世界で初めて成功しました。頭状花序を持つキクでは花弁のように見える舌状花(個々が一つの花)で退化して見えなくなっていた雄ずいが5枚の細い花弁になって露呈するため、一般的な八重の花とは異なる独特の華やかな印象を与えるようになりました。クラスC遺伝子の機能抑制による雄ずいや雌ずいの花弁化は花卉の不稔化技術としてもその利用が期待されています。
本研究は,農研機構・佐々木克友 博士らとの共同研究によるものです。論文は2021年4月13日に科学雑誌Plantaに掲載されました。